きすけろぐ

翻訳者きすけの頭のなか

翻訳におけるチェッカーの役割

 

翻訳業界には、チェッカーという仕事がある。

 

チェッカーの業務は、翻訳者から上がってきた訳文の内容を確認すること。

その確認内容には、訳文の解釈が間違っていないか、抜けはないか、訳語にブレはないか、数字や記号は合っているか、固有名詞は正しいか、和訳の場合は「てにをは」の確認、英訳の場合は単純な文法ミスの有無など、あらゆる面が含まれる。

 

わたしも翻訳の仕事につくきっかけとしてオンサイトのチェッカーを経験したが、翻訳の実務経験のない人が翻訳者の見習い的な立場で仕事をする場合も多い。

 

特に取り扱い分野が多岐にわたり専門分野ごとのチェッカーを持たない翻訳会社では、チェッカーが対象となる文章の専門知識を持っていない場合も多々ある。

 

しかし理想で言えば、翻訳者と同等水準またはそれ以上の背景知識や言語知識を持つ人物がチェックを行うのが望ましい。

 

わたしがオンサイトでチェッカーをしていた時、勤務していた翻訳会社の扱う分野は幅広く、おまけに多言語対応もしていたので、様々な分野の文章に触れ、よい経験にはなった。

インターネットを使った調査の方法も身につけ、事実確認の要領も身につけた。

 

数学が死ぬほど嫌いなド文系なので、機械系の取扱説明書などは内容が理解できないことも多く、調査に時間もかかったが、継続的な案件をチェックしていた医学系の論文や研修資料などは、これは何かおかしい、などと訳文のミスに対する嗅覚らしきものが身についた。

 

オンサイトに行かなくなってから何年もたつが、いまだにその会社からは時間の都合がつく限り、チェックの案件を受注している。

 

上手い人の訳文は勉強になるし、そうでない人の訳文は自分への戒めになるし、自分の専門分野以外の文章を読むことがある種の気分転換にもつながっている。

 

翻訳者を目指す人にとって、チェッカーへの応募は翻訳業界に入るよいきっかけになる。自分が最終的に翻訳者になりたいのか、専門職としてのチェッカーを極めるのかをしっかり見据え、翻訳者になるためのステップとするのであれば、チェック業務の中で自分の翻訳力を磨いていくという意識をキープすることが必須だと思う。

 

ただ、チェッカーは基本的には翻訳者よりも報酬が少なく、時給計算の場合もあるので、収入面も考慮する必要があるだろう。

 

「職人」に憧れるわたしとしては、チェックという仕事を極め、出版業界でいうプロの校正者のような信頼できる立場を築いていく人も素敵だなと感じるし、しっかりしたチェッカーがある会社は、翻訳の品質を大切にしているのだと安心する。

 

わたしにとってチェッカー業務の経験は非常に役に立っているので、悩んで一歩踏み出せない人には、おすすめしたい。