きすけろぐ

翻訳者きすけの頭のなか

『あのひとは蜘蛛を潰せない』彩瀬まる <新潮文庫の100冊> ~自分に自信がもてない女性が、少しずつ変化していく姿が心につまる

新潮文庫の100冊読むぞシリーズ第22弾

 

『あのひとは蜘蛛を潰せない』

著者:彩瀬まる

発行年:2015年

 

あらすじ

“ドラッグストア店長の梨枝は、28歳になる今も実家暮し。ある日、バイトの大学生と恋に落ち、ついに家を出た。が、母の「みっともない女になるな」という“正しさ”が呪縛のように付き纏(まと)う。突然消えたパート男性、鎮痛剤依存の女性客、ネットに縋る義姉、そして梨枝もまた、かわいそうな自分を抱え、それでも日々を生きていく。ひとの弱さもずるさも優しさも、余さず掬う長編小説。”

出典元:新潮社

 

感じたこと

新潮文庫の100冊のリーフレットの中では「恋する本」として分類されているけれど、恋愛とかの話だけではなく、若い女性が悩みながら自分を見つけ出していく姿が描かれている。

 

まったく内容を知らずに読んだけれど、すごく面白かった。

 

母と娘のいびつなつながりは、現実味にあふれているし、深夜のドラッグストアに現れる「バファリン女」も、とてもリアル。

 

梨枝と三葉の関係性の変化も、その危うさに苦しくなってしまった。

 

“一瞬、心臓が鋭く跳ねる。なにか、開けたくない箱のふたが浮き上がるような気味の悪さ。”     -本文p. 160

 

この文章にはドキッとした。

これ以上、進んじゃいけない、わかってる、わかってる…という本人の心の底で渦巻く感情がとてもよく表れていると思う。

 

母からの呪縛をときたいともがきながら、大学生の彼にはその呪縛に近いものを感じてしまう梨枝。

 

タイトルの付け方も、素敵だった。