『野火』大岡昇平 <新潮文庫の100冊> ~戦争の残酷さを改めて感じる
新潮文庫の100冊読むぞシリーズ第44弾
『野火』
著者:大岡昇平
発行年:1954年
あらすじ
“敗北が決定的となったフィリッピン戦線で結核に冒され、わずか数本の芋を渡されて本隊を追放された田村一等兵。野火の燃えひろがる原野を彷徨う田村は、極度の飢えに襲われ、自分の血を吸った蛭まで食べたあげく、友軍の屍体に目を向ける……。平凡な一人の中年男の異常な戦争体験をもとにして、彼がなぜ人肉嗜食に踏み切れなかったかをたどる戦争文学の代表的名作である。”
出典元:新潮社
感じたこと
大岡昇平自身がフィリピンで米軍の捕虜となっていて、体験に基づく描写がとてもリアル。読みながら主人公や周りの息遣いまで感じられるようで苦しい。
極限状態にありながら、生きること。
人肉を食べるという衝撃的な面が大きく取り上げられるけれど、それに至る、日常の生活では想像もできないような状態。
その状態を作り出してしまう戦争。
自分が戦争を体験していないことは幸せなことだし、だからこそ、子供たちの世代にも戦争を体験させたくない。
そのためには、こういう形で折に触れ、戦争について考えることが必要なんだと思う。
『檸檬』梶井基次郎 <新潮文庫の100冊> ~本棚に檸檬、という視覚的な美しさ
新潮文庫の100冊読むぞシリーズ第43弾
『檸檬』
著者:梶井基次郎
発行年:1967年
あらすじ
“31歳という若さで夭折した著者の残した作品は、昭和文学史上の奇蹟として、声価いよいよ高い。その異常な美しさに魅惑され、買い求めた一顆のレモンを洋書店の書棚に残して立ち去る『檸檬』、人間の苦悩を見つめて凄絶な『冬の日』、生きものの不思議を象徴化する『愛撫』ほか『城のある町にて』『闇の絵巻』など、特異な感覚と内面凝視で青春の不安、焦燥を浄化する作品20編を収録。”
出典元:新潮社
感じたこと
梶井基次郎、国語便覧などでもちろん名前はよく知っているけれど、実際に読んだのは(たぶん)初めて。教科書に載ってたかなぁ…
難解な文章だろうと身構えたが意外とすんなり入り込める。
短いこの話を読むと、短編映画を見ているような映像が浮かんでくる。
印刷物の香りのするくすんだ書店に鮮やかな黄色い檸檬。
文学としての良さはわからないけれど、読み終わった後に残る美しさがよかった。
『ソロモンの偽証』宮部みゆき <新潮文庫の100冊> ~同級生の死に対して行動を起こす高校生の強さ
新潮文庫の100冊読むぞシリーズ第42弾
『ソロモンの偽証』
著者:宮部みゆき
発行年:2012年
あらすじ
“二人の同級生の死。マスコミによる偏向報道。当事者の生徒達を差し置いて、ただ事態の収束だけを目指す大人。結局、クラスメイトはなぜ死んだのか。なにもわからないままでは、あたし達は前に進めない。だったら、自分達で真相をつかもう――。そんな藤野涼子の思いが、周囲に仲間を生み出し、「学校内裁判」の開廷が決まる。次第に明らかになる柏木卓也の素顔。繰り広げられる検事と弁護人の熱戦。そして、告発状を書いた少女が遂に……。夏、開廷の日は近い。”
出典元:新潮社
感じたこと
単行本では3冊、文庫本では6冊とかなりのボリュームで、宮部みゆきで読みやすいだろうというイメージがなければ、読み始めるのに勢いが必要になるほどの分量。
高校生が学校の中で本当の事件の模擬裁判を行う、という現実には起こらないであろう設定で話が進んでいくが、生徒だけではなく先生の心の問題やマスコミの一面的な報道などにも触れていて、物語の厚みがさすがという感じ。
結末に至るまでのストーリーそれ自体よりも、取り巻く環境や小さな出来事の積み重ねが興味深かった。
『ジャッカルの日』~大統領暗殺を狙うスナイパーとそれを追う警察
あらすじ
“ドゴール大統領暗殺をもくろむ“ジャッカル”という名の男を描いたフレデリック・フォーサイスの同名ベストセラー小説の映画化。暗殺に向けて用意周到に行われる準備とパリ警察の地道な捜査をリアリティたっぷりなディティールで克明に描いた社会派サスペンスの一級品。ドゴール暗殺のクライマックスは、実際に起こらなかった事が判っているにもかかわらず物凄い緊迫感で迫る。”
出典元:allcinema
作品情報
原題:The Day of the Jackal
監督:フレッド・ジンネマン
出演:エドワード・フォックス
マイケル・ロンズデール
公開:1973年
感じたこと
『ジャッカルの日』は映画よりもフレデリック・フォーサイスの小説として知っていて、昔、原書で読んでみようとして途中で挫折したことがある。
フランスが舞台なのに英語で話されていることに違和感を覚えたけれど、話が進むうちにそれほど気にならなくなった。
大統領の暗殺のために雇われたジャッカル。
ハードボイルドな感じが続く映画はあまり得意ではないけれど、警察が追い詰めながらも手をすり抜けていく感じがスリリングに描かれていて、最後まで引き付けられた。
以前、リメイクされたリチャード・ギアとブルース・ウィルスの『ジャッカル』を見たけれど、内容もかなり違って、ほぼ別物。
リメイクするなら、このくらい振り切った方がいいような気がする。
『白いしるし』西加奈子 <新潮文庫の100冊> ~自分の意思ではどうにもならない感情
新潮文庫の100冊読むぞシリーズ第41弾
『白いしるし』
著者:西加奈子
発行年:2013年
あらすじ
“女32歳、独身。誰かにのめりこんで傷つくことを恐れ、恋を遠ざけていた夏目。間島の絵を一目見た瞬間、心は波立ち、持っていかれてしまう。走り出した恋に夢中の夏目と裏腹に、けして彼女だけのものにならない間島。触れるたび、募る想いに痛みは増して、夏目は笑えなくなった──。恋の終わりを知ることは、人を強くしてくれるのだろうか? ひりつく記憶が身体を貫く、超全身恋愛小説。”
出典元:新潮社
感じたこと
西加奈子の描く、強い意志と感情を持つ人間が好き。
恋愛でも、生き方そのものでも。
この作品の主人公の夏目もそう。
抗えない気持ちのまま、間島に惹かれる夏目の姿も、瀬田との関係性も、読んでいて苦しくなるけれど、人間臭くて魅力的。
もちろん恋愛小説ではあるのだけれど、人がこころのままに生きる姿をえぐっている話だと思う。
やっぱり西加奈子の作品、好きだな。
『ブリッジ・オブ・スパイ』~トム・ハンクスって弁護士役が似合うなぁ…
あらすじ
“アメリカとソ連が一触即発の冷戦状態にあった1950~60年代。ジム・ドノヴァンは、保険の分野で実直にキャリアを積み重ねてきた弁護士だった。ソ連のスパイの弁護を引き受けたことをきっかけに、世界平和を左右する重大な任務を委ねられる。それは、自分が弁護したソ連のスパイと、ソ連に捕らえられたアメリカ人スパイの交換を成し遂げることだった。良き夫、良き父、良き市民として平凡な人生を歩んできた男が、米ソの戦争を食い止めるために全力で不可能に立ち向かっていく!”
出典元:20世紀フォックス
作品情報
原題:Bridge of Spies
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:トム・ハンクス
マーク・ライランス
エイミー・ライアン
アラン・アルダ
公開:2015年
感じたこと
何作品目なんだろう。スピルバーグ監督とトム・ハンクスの組み合わせ。
毎回外れなしで面白いものを作り続けているのがすごい。
今回は米ソ冷戦時代のスパイが描かれている。
米国で捕まったソ連のスパイと、ソ連で捕まった米兵の交換。
そしてベルリンの壁の混乱時に東側で拘束された米国人の学生。
その交渉をトム・ハンクス演じるドノヴァンが担う。
世の中の空気に流されず、弁護士として依頼人の権利をきちんと守ろうとするドノヴァン。
家族に危険が及ぶような状況でそれを貫くのは大変な決意。
ベルリンの壁の崩壊はニュースでよく見るけれど、実際に壁が作られたときの様子はこの映画で描かれているような感じだったのだろうか。
これまで知らなかったこと、疑問に思っていなかったことに気付けた。
ベルリンの壁が建設された経緯について、もう一度しっかり調べてみようと思う。
フェルメール展
先日、大阪市立美術館で開催されているフェルメール展に行ってきた。
開催当初から気になっていたのになかなかタイミングが合わなかったのだけれど、なんとか時間が取れた。
平日のお昼時とはいえ、なかなかの人。
現存するフェルメールの作品は35点ほどで、そのうち6作品が展示されている。
有名な『真珠の耳飾りの少女』はなかったけれど、実際にフェルメールを見るのは初めてなので、楽しみにしていた。
会場に入ると、最初はフェルメールと同時期の作家の作品が並ぶ。
絵画に詳しいわけではないので、何派だとか技法だとかはわからない。
でも見ているだけで引き付けられる作品も多い。
カレル・デュ・ジャルダンの『自画像』のブラウスの袖口の繊細さ。
ヤン・ウェーニクスの『野ウサギと狩りの獲物』の毛並みの表現。
そしてフェルメールの作品では『手紙を書く夫人と召使い』の絵にひかれた。
解説を読みながら回ったけれど、フェルメールの『手紙を書く女』のところでテーブルクロスのひだと女性の腕が平行に描かれていることが指摘されていて、そういうことを絵の解釈とか技法とかでは見るのかと、改めてびっくり。
「好き」とか「あまり好きじゃない」とか「なんか気になる」とかを感じるだけで見て回ったけれど、十分楽しかった。
でも以前、いろんな検定を調べていた時に「美術検定」というものがあった。
みてみると、その公式テキストや副読本がなかなか面白そう。
少しでも知識を持ちながら鑑賞すると、また違った見方もできそうだし、今年のやりたいことリストに加えてみようかな。