『昨日がなければ明日もない』宮部みゆき ~安定の杉村三郎シリーズ
『昨日がなければ明日もない』
著者:宮部みゆき
発行年:2018年
あらすじ
“『希望荘』以来2年ぶりの杉村三郎シリーズ第5弾となります。中篇3本を収録する本書のテーマは、「杉村vs.〝ちょっと困った〟女たち」。自殺未遂をし消息を絶った主婦、訳ありの家庭の訳ありの新婦、自己中なシングルマザーを相手に、杉村が奮闘します。”
出典元:文藝春秋
感じたこと
宮部みゆきの作品では『英雄の書』とか『悲嘆の門』とかが好きなのだけど、他の物を読んでもぐいぐい引き込まれるし、さすがだなぁと思う。
杉村三郎が今回対応する3人の女性は、それぞれが問題を抱えている。
特に最後のシングルマザーの話は、自分には理解できない倫理観や基準を持っている人とかかわる話で、身近に経験したことはないけれど、現実にも起こりえる。
ひとつひとつが大事件なわけではなく、すっきり解決するわけでもないけれど、考え方の異なる人と関わりあいながら生きていく様子がきちんと描かれている。
時代小説、ファンタジー、ミステリーなど、ジャンルを超えて評価される作品を生み出し続けているって、すごいな。
『さざなみのよる』木皿泉 ~意外な構成にびっくりしながら引き込まれた
『さざなみのよる』
著者:木皿泉
発行年:2018年
あらすじ
“小国ナスミ、享年43。
宿り、去って、やがてまたやって来る――。
命のまばゆいきらめきを描いた、感動と祝福の物語。
「今はね、私がもどれる場所でありたいの。
誰かが、私にもどりたいって思ってくれるような、そんな人になりたいの」(9話より)
「やどったから、しゅくふくしてくれてるんだよ」
やどったって、何が?と光は心の中で聞いてみる。
「いのちだよ」(13話より)”
出典元:河出書房新社
感じたこと
最初に、ナスミが病院で亡くなっていくシーンが描かれる。
しかも一人称で。
それからナスミを取り巻くひとたちが一人称でそれぞれの物語を語っていく。
木皿泉を知ったのはテレビドラマの脚本家として。
『すいか』や『野ブタ。をプロデュース』、『セクシーボイスアンドロボ』、『Q10』。
どれも好きだった。
そして後から『やっぱり猫が好き』の脚本も手掛けていたと知って、うわ、これも大好きだった!とびっくり。
この作品も含め、どの作品も、大きな事件ではなくて普通のひとの(ロボットのような普通の人じゃない場合も)日常や心の動きがとても丁寧で、まとっている雰囲気がすごく好き。
また、小説も読みたいし、ドラマもみたいな。
『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる』幡野広志 ~親として自分のありたい姿が見える
『ぼくが子供のころ、ほしかった親になる』
著者:幡野広志
発行年:2018年
あらすじ
“ガン(多発性骨髄腫)で余命宣告を受けた35歳の父が、2歳の息子に伝えたい大切なこと。
- 1 優しさについて、ぼくが息子に伝えたいこと
- 2 孤独と友だちについて、息子に学んでほしいこと
- 3 夢と仕事とお金について、息子に教えておきたいこと
- 4 生と死について、いつか息子と話したいこと
写真家、元猟師の著者・幡野広志が、父として男として息子に伝えたい言葉は、多くの人の心に刺さる真実の言葉である。”
出典元:PHP研究所
感じたこと
幡野さんのことを知ったのは、『ほぼ日刊イトイ新聞』のインタビューを読んだのがきっかけ。
余命3年と宣告される。
子供はまだ幼い。
その状況だけで、胸が苦しくなる。
そしてこの本を読んでみて、さらに苦しくなった。
幡野さんの考え方にすべて共感するわけではない。
けれど、次の部分は、わたしがこうありたいと思う親の姿。
'お父さんは優くんにとって、遠くでぼんやりと光る灯台のような存在でありたいです。
ぼんやりとした光は明るいときは見えなくても、暗い海で不安になったときに安心感をあたえます。'
明るいときには感じなくていい。でも、ずっとちゃんと見守っている。
そして、暗いときには安心させてあげたい。
子供たちにとってそんな存在でありたいと、強く願う。
『マルタの鷹』~ハンフリー・ボガートは、いつもハンフリー・ボガート。
あらすじ
“サン・フランシスコで私立探偵局を開いているサム・スペードは、ワンダリーという女から、サースビーという人物に尾行されているから救ってほしいと頼まれるが、スペードの相棒のアーチャーが彼女の美しさにひかれて買って出た。しかしその夜アーチャーはサースビーと共に死体となって発見される。”
出典元:Movie Walker
作品情報
原題:The Maltese Falcon
監督:ジョン・ヒューストン
出演:ハンフリー・ボガート
メアリー・アスター
公開年:1941年
感じたこと
ハンフリー・ボガートが、イメージそのまま。
『カサブランカ』の公開がこの作品の翌年で、どちらもクールだけど熱い思いを抱えていそうでつかみどころがないダンディなおじさまの役柄。
フィルム・ノワールの古典といわれているけれど、それほど残酷な犯罪シーンがあるわけではない。
1941年という時代を考えると、そういうものなのかな。
退屈はしなかったけれど、面白い!おすすめ!というほどではなかったなぁ。
『熱帯』森見登美彦 ~マトリョーシカのように幾重にも重なる不思議な話
『熱帯』
著者:森見登美彦
発行年:2018年
あらすじ
“沈黙読書会で見かけた『熱帯』は、なんとも奇妙な本だった。
謎の解明に勤しむ「学団」に、神出鬼没の「暴夜(アラビヤ)書房」、鍵を握るカードボックスと「部屋の中の部屋」――。
幻の本を追う旅は、いつしか魂の冒険へ!”
出典元:文藝春秋
感じたこと
読んだ人は誰も最後まで読み切っていない『熱帯』という本を巡る話。
最初は物語の設定がよくわからなくて、どういう話なんだろうと不思議な気持ちが続いた。
後半を中心に頭の中がこんがらがりながらも、登場人物を一人一人しっかり考えて自分の頭の中で自由に不思議世界を作り上げていけるのが、ファンタジーを読む醍醐味。
森見登美彦作品はいくつか読んでいるけれど、纏っている雰囲気が今回は少し違う気がして、何となく村上春樹の不思議ワールドに近いように感じた。
この話の中で鍵となり続けている『千一夜物語』、実はその成り立ちも内容もよく知らなかったこと自体に初めて気づいた。
アラジンの話が載っている物語集くらいにしか思っていなかったのに、実はとっても奥が深そう。
『おしゃれ泥棒』~かわいい…オードリーがかわいすぎる…
あらすじ
“贋作画家シャルル・ボネの家に、内偵中の私立探偵シモンが忍び込んだ。ところがたちまち、画家の娘ニコルに発見されてしまう。シモンを泥棒と信じたニコルは、美術館からビーナス像を盗み出すことを依頼する。警戒厳重な美術館に、二人は潜入することに成功するが……。オードリーのロマンティック・コメディ。”
出典元:allcinema
作品情報
原題:How to Steal a Million
監督:ウィリアム・ワイラー
出演:オードリー・ヘップバーン
ピーター・オトゥール
公開:1966年
感じたこと
どうやってもどんな服を着ていてもオードリーがかわいい。
他の人には絶対着こなせないようなものでも、とってもかわいい。
監督が『ローマの休日』と同じウィリアム・ワイラーだから、オードリーの魅せ方を分かっているのかな。
話の内容は現実的ではないし、ファンタジーのようなものなんだけれど、なんだかすべてがキュートなオードリーで納得してしまう。
贋作作家の娘とそれを見つけ出す探偵の恋なんて設定、他の人が演じてたら説得力ないじゃないかと。
パリの雰囲気も素敵。
『あん』~自分の辛さを他人へのやさしさに変えることができる人
あらすじ
“縁あってどら焼き屋「どら春」の雇われ店長として単調な日々をこなしていた千太郎(永瀬正敏)。そのお店の常連である中学生のワカナ(内田伽羅)。ある日、その店の求人募集の貼り紙をみて、そこで働くことを懇願する一人の老女、徳江(樹木希林)が現れ、どらやきの粒あん作りを任せることに。徳江の作った粒あんはあまりに美味しく、みるみるうちに店は繁盛。しかし心ない噂が、彼らの運命を大きく変えていく…”
出典元:映画「あん」製作委員会
作品情報
監督:河瀬直美
出演:樹木希林
永瀬正敏
内田伽羅
公開:2015年
感じたこと
らい予防法が廃止されたのが1996年。
その時に、ハンセン病のために隔離されたり人権を奪われてきた人たちのことが多く報道され、その実態を知った。
千太郎やワカナが感じている生きづらさを、理不尽に人生を奪われてきた徳江さんが和らげてくれる。
河瀬直美監督の作品を見たのは初めて。
カンヌで評価されているので難解な作品というイメージがあったのだけれど、そんなこともなくて、穏やかに心に沁み込みながら話が進んでいく。
自分の辛い経験を人へのやさしさにできる人。
そんな徳江さんを本当に自然に演じる樹木希林の存在感はさすが。