『たゆたえども沈まず』原田マハ ~19世紀の終わりのパリ。浮世絵を扱う日本人画商とゴッホや弟のテオとの心の交流。
ゴッホと日本人の心のつながり
『たゆたえども沈まず』
著者:原田マハ
発行年:2017年
あらすじ
“誰も知らない、ゴッホの真実。 天才画家フィンセント・ファン・ゴッホと、商才溢れる日本人画商・林忠正。 二人の出会いが、〈世界を変える一枚〉を生んだ。 1886年、栄華を極めたパリの美術界に、流暢なフランス語で浮世絵を売りさばく一人の日本人がいた。彼の名は、林忠正。その頃、売れない画家のフィンセント・ファン・ゴッホは、放浪の末、パリにいる画商の弟・テオの家に転がり込んでいた。兄の才能を信じ献身的に支え続けるテオ。そんな二人の前に忠正が現れ、大きく運命が動き出す――。『楽園のカンヴァス』『暗幕のゲルニカ』の著者による アート小説の最高傑作、誕生! 2018年 本屋大賞ノミネート!”
出典元:幻冬舎
感じたこと
パリは水害があっても、セーヌ川が氾濫しても、たゆたいこそすれ、沈まない。
激流にもまれても、流れに逆らわず、しかし決して沈まず、また立ち上がるパリの姿があらわれている。
この話はフィクションではあるのだけれど、ゴッホや弟のテオ、日本人画商とのやりとりを実際に見ているかのように、その時代の欧州の様子がいきいきと描かれている。
日本の浮世絵が欧州で与えた影響については、学生の時に歴史や美術で学んだ覚えはあるけれど、このように物語の中でとらえると、またちょっと違った見方ができて面白い。
日本人はゴッホ好きといわれるが、確かに美術に詳しいわけではないわたしでも、ゴッホの作品はいくつも知っている。
子供の頃、美術全集みたいなものが家にあり、気が向けはぱらぱらと覗いてみていた。
シャガールの描く空の青色も好きだったけれど、この本の表紙となっているゴッホの『星月夜』がすごく好きだった。
『夜のカフェテラス』も好きで、印刷されたポストカードを部屋に飾っていたこともあった。
物語自体、面白く読めたけれど、読み終わってからもう一度、言及されていた作品をひとつひとつインターネットで調べていくのがとても面白かった。
ゴッホの『ジャガイモを食べる人々』や『タンギー爺さん』だったり、歌川広重の『大はしあたけの夕立』だったり、ふむふむと眺めていると、そこからさらに同時代の作家の作品は…などと興味がどんどん広がっていく。
ゴッホほどの有名作家のものでなくてもいいから、ゆっくり美術館に行ってみたくなる。
「たゆたう」って響きにも惹かれるし、このタイトルの意味が、しなやかな強さを表していて素敵だな。