きすけろぐ

翻訳者きすけの頭のなか

『しゃぼん玉』乃南アサ <新潮文庫の100冊> ~通り魔を繰り返していた若者がたどり着いた村で感じた人とのつながり

 

新潮文庫の100冊読むぞシリーズ第13弾

 

『しゃぼん玉』

著者:乃南アサ

発行年:2004年

 

あらすじ

“女性や老人だけを狙った通り魔や強盗傷害を繰り返し、自暴自棄な逃避行を続けていた伊豆見翔人は、宮崎県の山深い村で、老婆と出会った。翔人を彼女の孫と勘違いした村人たちは、あれこれと世話を焼き、山仕事や祭りの準備にもかり出すようになった。卑劣な狂犬、翔人の自堕落で猛り狂った心を村人たちは優しく包み込むのだが……。涙なくしては読めない心理サスペンス感動の傑作。”

出典元:新潮社

 

感じたこと

翔人が村にたどり着くまでの状況は、読んでいてイライラするものだった。

 

上手くいかないことをすべて人のせいにして、怒りをコントロールできず、人を傷つけることに罪悪感を覚えることもない。

 

しかし、怪我をした老婆に偶然出会い、奥深い山の中の村で過ごしていくうちに、村人とつながりを持ち始め、少しずつ変わっていく。

 

ニュースでは毎日信じられないような残虐な事件が報じられていて、その犯人の気持ちを理解することはできそうもないけれど、環境がほんの少しでも違っていたら、その犯人の行動は変わっていたのかもしれない。

 

加害者が被害者の気持ちを想像するというのは、贖罪の第一歩だと思う。

 

翔人が変化していったのは、きっとそれまでの彼の人生で触れ合うことのなかった種類の人と交流したからだろうし、すべてが上手くいかなくて苦しいと思うなら、少し世界を広げるだけでも、きっとそれを抜け出すきっかけになる。

 

読み終わった後に、ちょっとだけ前向きになれる本だった。