きすけろぐ

翻訳者きすけの頭のなか

『ファーストラヴ』島本理生 ~親子のつながり。家族のつながり。他人ではないからこそ複雑で深刻な関係。

 

『ファーストラヴ』

著者:島本理生

発行年:2018年

 

 あらすじ

“夏の日の夕方、多摩川沿いを血まみれで歩いていた女子大生・聖山環菜が逮捕された。彼女は父親の勤務先である美術学校に立ち寄り、あらかじめ購入していた包丁で父親を刺殺した。環菜は就職活動の最中で、その面接の帰りに凶行に及んだのだった。環菜の美貌も相まって、この事件はマスコミで大きく取り上げられた。なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか?

臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、環菜やその周辺の人々と面会を重ねることになる。そこから浮かび上がってくる、環菜の過去とは? 「家族」という名の迷宮を描く傑作長篇。”

出典元:文藝春秋

 

 

感じたこと

第159回直木賞受賞作。

 

島本理生といえば、まだ読んでいないけれど、映画『ナラタージュ』の原作を書いた人だなというくらいの認識しかなくて、勝手に恋愛系の甘い感じの作家なのかと思っていた。

 

でも読んでみたらそうではなかった。

 

人の心の奥の方にある壁にぬるりと淀んでいるものを、裁判のために被告人から話を聞くという形で、被告人から、そして主人公である臨床心理士の由紀から、探り出していく。

 

朝井リョウが“著者の小説を読むと、人の心は複雑な立体物なのだと痛感させられる。”と評していたけれど、まさに心の複雑さを描いている感じ。

人を一面的に見ることは、普段の人間関係においても、事件が起きた時の裁判でも、本当の理解を妨げる。

 

家族に問題があっても、家族のことだからこそ、人に言えなかったり、心の中に抑えつけざるを得なかったりして、周りからは見えない根深い苦しみになっていくのだろう。

 

殺人を犯してしまった環菜の抱える家族。

その環菜の話を聞きながら、自分の抱える問題に向かい合う由紀。

 

臨床心理士が実際にこのような形で裁判などにも関わっていくことがあるのかどうかはわからないけれど、人の心に寄り添う大変な仕事。

 

次は『ナラタージュ』も読んでみようと思う。