きすけろぐ

翻訳者きすけの頭のなか

翻訳はかっこいい仕事ではない

 

仕事を尋ねられた時に、在宅のフリーランスで翻訳の仕事をしていると答えると、「かっこいい」とか「優雅だねぇ」などと言われることが多い。

 

しかし、現実はまったくかっこいいものではなく、納期が迫っている時には何日間も一歩も家から出ることなく、すっぴんでくたびれた部屋着を着てひたすらパソコンと向かい合っている。

 

在宅で仕事を受けるようになった最初の年に、10万ワードほどを3ヵ月間の納期で、という案件を受注した。

 

当時はまだ週2日ほどは翻訳会社でオンサイトのチェッカーの仕事もしていたので、すべての時間を翻訳に使うことができなかった。

 

今であればそれほど大量だとは思わないが、その時は翻訳のスピードも遅いし、自分が本当にそれだけの大きさの案件をやり切れるのかというプレッシャーもあり、毎日追い詰められていた。

 

家事も家族にご飯をつくるのと、最低限の掃除などでいっぱいいっぱい。

 

最後の方にはまぶたが痙攣したりして、ストレスかな…と思っていたら、納品して気が抜けたとたんに帯状疱疹を発症し、よっぽど疲れていたのだと実感。

 

最初の頃は依頼された仕事を断ると次がないのではないかと不安になって、基本的に断ることはせず、睡眠時間を削って作業していた。

 

ただ、そんなに途切れずに仕事がくるほどの実力もなかったので、数週間、倒れそうなほどの仕事がつまって睡眠もあまりとれないことが続くこともあれば、ぱったり暇になり、週2日ほど、2時間くらい作業するだけというときもあった。

 

何年か経験を積んで、完全に在宅で仕事を受けるようになった時に、年齢もいい感じになってきているし、ワークライフバランスを考えようと決めた。

 

睡眠がとれなくくらいに詰め込むと、作業効率も悪くなるし、納品物の品質も下がる。

 

納期を打診された時に立て込んでいれば、「現在、別の案件の対応中なので、*日納期であれば対応できます。調整可能でしょうか」などと交渉し、それでも無理な時は断るようにしている(案件を逃した…と心の中で泣いているけど)。

 

パソコン作業を続けていると、肩がバキバキに凝るし冷え性も悪化するので、気分転換もかねて、1日に1回は買い物でもいいからできるだけ外出し、可能であれば1時間ほどのウォーキングなどをするように心がけている。

 

個人事業主なので、何かあって仕事が来なくなっても失業手当があるわけでも収入の保証があるわけでもないのだから、本当に体が資本。

 

とはいえ、解釈が難しかったり、自分にとって新しい分野だったり、調べものが多いものだと、当初の想定よりも時間がかかることも多いし、「無理を言ってすみません」といつもお世話になっている翻訳コーディネーターに頼まれると断れないものもある。

 

そんな感じの忙しい日が重なると、とても人には見せられないような身なりで引きこもっていたりするのだが、激しい雨が降る日の朝などは、出勤しなくていい在宅フリーランスの利点をかみしめ、この生活は手放せないなあとしみじみ思う。

 

決してかっこよくはないけれど、この生活がわたしらしいのかな。