翻訳者になるまで
小さなころは、「スチュワーデスになりたい!」「婦人警官になりたい!」といった「子供がなりたい職業アンケート」の上位にでてくるような職業に憧れていた。
現実的に翻訳を仕事として意識したのは、結婚してから。
夫の会社は転勤が多く、自分のキャリアとして続けていけるものは何だろうかと考え始めた時、在宅でできる翻訳は非常に魅力的に思えた。
大学卒業時のTOEICのスコアは600程度。
在学中に英検準1級は取得していたが、大学の専攻は経済で、留学経験もなく、英語で食べていこうとするには、そもそもの英語力が足りない。
出産を機に退職し、TOEICや英検の勉強を市販のテキストを使用しながら独学で進めた。
翻訳については、通信講座を2つほど。
ひとつは総合的なものと、もうひとつは金融・経済に特化した講座。
大学で経済を学んでいたこともあり、専門分野を金融・経済とした英日翻訳を仕事にしようとおおよその道筋を決めたのは、翻訳を勉強し始めてから8年近くたってからのこと。
子育てをしながらの非常にゆるりとしたペースで、その間に日商簿記2級、英検1級を取得し、TOEICのスコアを850くらいまで上げた。
下の子が小学校に入学する時期に、本格的に翻訳に関わる仕事につこうと考え、まずは翻訳会社で非常勤のチェッカーを始めた。
この会社は様々な文書を扱い、多言語対応もしている会社だったので、毎日何かしらの発見があり、楽しく仕事ができた。
ここで大量の英文に日々触れたことで、英語の文章の構造がつかめないかもしれないという恐怖感がなくなった。
1年ほどたってから、在宅での翻訳の求人に応募し始め、トライアルにいくつか合格し、少しずつ、本当に少しずつ、翻訳の仕事を得ることができるようになった。
さらに2年ほどたち、在宅での翻訳の仕事をメインにしようと決意し、チェッカーとしての仕事も在宅に移行させてもらった。
その後、当然ながら、仕事が途切れなかったわけではない。
1週間以上、ぽっかりと仕事の依頼もなく、ただただ不安になることも多かった。
いまでも3日仕事が空くと、不安になる。
でも、その隙間の時間は自分のスキルアップや趣味に使うことができる。
満員電車に乗らなくていい。
自分自身で仕事のスケジュールを完全に管理できる。
対人ストレスを感じなくていい。
収入面の不安定さというリスクはあるけれど、わたしにとってフリーランス、かつ在宅で働くことは、そのリスクを上回る精神的な安定というメリットがある。
数年前に、四半世紀ぶりに小学校の親友と会う機会があった。
その時に、仕事の話をすると
「翻訳家になりたいって、あの頃、ずっと言ってたよね。夢を叶えたんだね。おめでとう!」
と言われた。
自分はすっかり忘れていたものの、友達には翻訳家になりたいと言っていたようで、
密かにわたしは夢を叶えていたのか…と思うと、なんだかちょっと嬉しく感じた。